8 泰伯第八 15 のバックアップ(No.1)
☆ 泰伯第八 十五章
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子曰 師摯之始 關雎之亂 洋洋乎盈耳哉
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子(し)曰(いは)く、師摯(しし)の始(はじめ)、関雎(くわんしょ)の乱(をさめ)、洋洋乎(やうやうこ)として耳(みみ)に盈(み)つるかな。
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☆ 意訳 (心理屋の勝手解釈)
先生が言われました。
私の若かりし頃、魯の宮廷楽師長に摯(し)という偉大な音楽家がおられました。この摯殿の演奏を初めて聴いたのですが、それは『詩経』の冒頭の詩『関雎(かんしょ)』でした。その曲の納め方、纏(まと)め方の素晴らしかったことと言ったら無いですね。楽(がく)の音(ね)の響きが大海のように広がって、宇宙の彼方にまで響き渡っていくようなそんな感じで、今でも思い起こすと、耳の中に満ち溢(あふ)れたその響きが蘇(よのがえ)ってくるほどです。
しかし悲しいかな、私が魯の国を出奔(しゅっぽん)した後(あと)、隣国斉(せい)の策略で、魯の正当な音楽は廃(すた)れてしまいました。摯殿はそのことに失望して、斉の国に去って行ってしまいました。
今一生懸命復活させる作業をしているのですが、何かにつけ思い起こされるのが、摯殿の演奏した『関雎』の美しさです。
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☆ 補足の独言
この章は、さっぱり分からない、というのが真相のようです。先づ何より、摯と言う人物が、歴史書に該当者(がいとうしゃ)がいない。この人か、と思われる人は、孔子より五百年も前の人なので、この章自体が史実ではない可能性が高いようです。
それと、「始」と「乱」の意味が解らず、各解釈者が根拠の無い勘で好き勝手を言っているようです。門外漢である私には当然それしかないので、根拠の無い私自身の勘で好き勝手を言わせてもらいました。が、私の勘の根拠は、以下のようなことです。
「乱(亂)」「ラン」には「おさめる」と「みだれる」という正反対の意味があります。元々は左側の偏(へん)が糸の乱れた状態を示す「ラン」という字で、右側の旁(つくり)はその縺(もつ)れを解きほぐす骨篦(ほねべら)を意味していて、乱れを糺(たゞ)して整(とゝの)える、という意味で、読みはこれも「ラン」だそうです。それでこの二つが混同して、何時(いつ)しか骨篦の付いた文字を「乱れる」と読むようになったのだそうです。
「乱」が本来の「おさめる、とゝのえる」の意味だとすると、縺(もつ)れて訳(わけ)の解らなくなっていた「関雎」という詩の演奏を、正しく解きほぐして美しく締(し)め、最高の芸術性を復活させた、と解釈しても良いのではないか、と思うのですが、如何なものでしょうか。
・「関雎」は、孔子の最も深く敬愛する周公旦(しゅうこうたん)の父である文王(ぶんのう)の婚礼を祝って寿(ことほ)ぐ歌、と言われています。この婚礼によって周公旦もこの世に生を受けたのですから、その意味でも孔子にとっては大きな喜びを齎(もたら)す歌と言えるのではないでしょうか。
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・「八佾第三、二十章」補足の独言 から再録
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關雎(くわんしょ) [コーコーと鳴く都鳥]
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一、關(くわん)々たる雎鳩(しょきう)は [こーこーと都鳥(みやこどり)は]
河(かは)の洲(す)に在り [河の洲にいて鳴いている]
窈窕(えうてう)たる淑女は [妖艶なる乙女は]
君子の好逑(かうきう) [心広き善き人の妻に相応しい]
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二、參差(しんし)たる荇菜(かうさい)は [不揃いの浅葱菜(あさぎな)を]
左右に之を流(と)る [流れに捌(さば)いて占う]
窈窕たる淑女は [妖艶なる乙女は]
寤寐(ごび)に之を求む [善き人の朝な夕なに恋うる人]
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三、之を求めて得ざれば [恋する乙女の現れざれば]
寤寐に思服(しふく)す [寝ても覚めても想い病めり]
悠(いう)なるかな悠なるかな [憂(うれ)え悲しみ塞(ふさ)ぎ込み]
輾轉(てんてん)反側(はんそく)す [寝返り打てども眠られず]
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四、參差(しんし)たる荇菜(かうさい)は [不揃いの浅葱菜を]
左右に之を采(と)る [捌(さば)いて善きを探し取れば]
窈窕(えうてう)たる淑女は [妖艶なる乙女は]
琴瑟(きんしつ)之を友(した)しむ [吾(われ)と共に琴を調べて楽しめり]
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五、參差たる荇菜は [不揃いの浅葱菜を]
左右に之を芼(えら)ぶ [捌いて善きを撰(えら)び決めれば]
窈窕たる淑女は [妖艶なる乙女は]
鐘鼓(しょうこ)之を楽しむ [吾と共に鐘を鳴らして喜べり]
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・「雎鳩(しょきゅう)」を「鶚(みさご)」と訳さずに「都鳥」と訳したのは、白川静(しらかわしづか)先生の説に基づきました。鶚は海鳥であり、猛禽(もうきん)です。川で仲睦まじく遊ぶ水鳥のイメージとは合いません。孔子の時代の雎鳩(しょきゅう)が何の鳥を指しているのかは分かりませんが、今の鶚(みさご)のことではなさそうです。取り敢えずイメージ的に「都鳥」としておきましょう、と言うことのようです。