2 為政第二 5

Last-modified: Tue, 08 Jun 2021 10:50:34 JST (1060d)
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☆ 為政第二 五章

 

 孟懿子問孝 子曰 無違 樊遲御 子告之曰 孟孫問孝於我 我對曰無違 樊遲曰 何謂也 子曰 生事之以禮 死葬之以禮 祭之以禮

 

 孟懿子(まういし)、孝(かう)を問ふ。子曰く。違(たが)ふこと無かれ、と。樊遅(はんち)御(ぎょ)たり。子之(これ)に告げて曰く。孟孫(まうそん)、孝を我に問ふ。我対(こた)へて曰く。違ふこと無かれ、と。樊遲曰く。何の謂(いひ)ぞや、と。子曰く。生(い)けるときは之に事(つか)ふるに礼を以(もっ)てし、死せるときは之を葬(ほうむ)るに礼を以てし、之を祭(まつ)るに礼を以てす。

 

☆ 意訳 (心理屋の勝手解釈)

 魯(ろ)の大夫(たいふ)で三桓(さんかん)という権力者である孟懿子(もういし)が、親孝行について質問しました。

 先生は一言だけ言われました。

 礼に背(そむ)いて外(はづ)れることのないように、と。それだけで孟懿子は帰っていきました。

 見送った後(あと)先生は、御者(ぎょしゃ)としてお供していた、弟子の樊遲(はんち)に、今の会話を語りました。

 「孟孫が親孝行とは何ですか、と訊(き)いてきたので、背かないことだね、と答えておいたよ」と。

 何のことやらさっぱり分からない樊遲は、素直に「どういう意味なのでしょうか」と尋(たづ)ね返しました。

 先生は言われました。

 親爺(おやじ)さんが生きている間は、確(しっか)りと誠意を尽(つ)くして社会の掟(おきて)に背(そむ)かないように仕(つか)えることです。亡(な)くなられたならば、社会の約束事に違(たが)わないように、誠意をもって葬儀(そうぎ)を執(と)り行うことです。そして、先祖としてお祭りする際(さい)にも、社会の約束事に背き外れることのないように、誠意をもって執り行うことです。とまあこのような意味ですね。

 (樊遲さんは、何となく分かったような気になって「はい」と答えて、馬車を御(ぎょ)して先生をお家(うち)までお送りしました。)

 

☆ 補足の独言

 孟懿子は、優秀な弟子だったのだなあ、ということが伝わってきます。「違(たが)うこと無かれ」という一言で、先生の言わんとする総てが解ったのですね。

 「親爺が積み重ねてきた、礼に違(たが)い、礼を失する悪事。それを償(つぐな)うのが、息子として行う可き孝なのだ。それは自分が礼を正して礼を行い、延(ひ)いては国事の非礼を正さねば国が滅びる、という先生の教え。百も千も承知(しょうち)致(いた)しております。ですが、あの三桓の中で非力な私に何ができるというのですか。申し訳ございません。失礼いたします。」と、そそくさと逃げるしかなかったでしょう。

 孔子も孟懿子の辛(つら)さは能く解っている。でも自分はこのようなときには、命を張って正義を貫こうとする性格である。だが孟懿子は違(ちが)う。彼にはそのような強さはない。しかし彼は私が一言(ひとこと)言っただけで総てを理解してくれた。だがその時の彼の苦渋(くじゅう)に満ちた、痛々しい表情。だけど、どうにも、もどかしい・・・。

 何も知らず、聞いても理解はできないであろう樊遲に聞いてもらって、自分の気持を納めるのが一番であろう。そう考えて孔子は、樊遲に表面的な孝のことだけを語り、本当に言いたい国事のことには全く触れずに心を納めたのでした。

 真面目な孟懿子の苦悩と、もどかしさに耐える孔子の思いやりとが、ひしひしと伝わってくる逸話(いつわ)ですね。