7 述而第七 14

Last-modified: Fri, 13 Oct 2023 19:52:41 JST (202d)
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☆ 述而第七 十四章

 

 冉有曰 夫子爲衞君乎 子貢曰 諾 吾將問之 入曰 伯夷叔齊何人也 曰 古之賢人也 曰 怨乎 曰 求仁而得仁 又何怨 出曰 夫子不爲也

 

 冉有(ぜんいう)曰(いは)く、夫子(ふうし)は衛(ゑい)の君(きみ)を為(たす)けんか。子貢(しこう)曰く、諾(だく)。吾(われ)将(まさ)に之(これ)を問(と)はんとすと。入(い)りて曰く、伯夷(はくい)・叔斉(しゅくせい)は何人(なんぴと)ぞや。曰く、古(いにしへ)の賢人(けんじん)なり。曰く、怨(うら)みたりや。曰く、仁(じん)を求(もと)めて仁を得(え)たり。又(また)何(なに)をか怨みんと。出(い)でて曰く、夫子は為(たす)けず。

 

☆ 意訳 (心理屋の勝手解釈)

 衛(えい)国は、王さんの霊公(れいこう)が亡くなった後(あと)、孫の出公(しゅっこう)輒(ちょう)が王さんになっていました。ところが、父霊公から勘当(かんどう)された、輒の父蒯聵(かいかい)が亡命先の敵国晋の援護を受けて、衛に攻め入ってきました。この頃弟子の子路は出公に雇われていました。そのこともあって、冉有や子貢達は、先生が出公を助ける気があるのか否かが大変気になっていたのです。それで、冉有が子貢に尋(き)きました。

 先生は衛君(えいくん)(出公輒)を助ける気があるのだろうか、それとも助ける気はないのだろうか。

 子貢は言いました。

 そうですね、私もとても気になっているところです。直ぐに行って私が先生の気持ちを確認してきましょう。一寸(ちょっと)待っていて下さい。

 そう言って子貢は先生の部屋に入っていきましたが、こう考えていました。

 衛の国君のことを尋ねるのだから、先生が否定的な思いを言えば、先生自身が礼に反することになるだろう。そうすると先生は言葉を濁(にご)さざるを得なくなる。こゝは一つ、蒯聵や輒とは正反対の、伯夷(はくい)と叔斉(しゅくせい)兄弟のことを尋(き)いてみよう。蒯聵の悪逆非道は言うまでもないが、幾ら悪逆非道であっても輒にとっては父親である。その親爺に楯突くことは明らかに礼に反している。伯夷叔斉は、悪逆非道な殷の紂王(ちゅうおう)を臣下である武王(ぶおう)が倒して周の国を建てたことを、礼に反することとして徹底的に先生の好きな周の武王に逆らい、ハンスト(断食抗議)をして餓死した人だ。先生の答えが、この兄弟を善(よし)とするものであるならば、親子して礼に反している何方(どちら)にも手を貸す訳がないだろう。反対に、武王が紂王を討(う)ったからこそ非道が裁(さば)かれ民が救われたのに、杓子定規に礼に反する、と武王を詰(なじ)るのは間違っている、というような答えであれば、子路の身も心配で堪(たま)らないから、衛の君(きみ)を助ける、という意志の表明ととれる。

 こう考えた子貢はこのように質問しました。

 伯夷叔斉は如何(どん)な人なのでしょうか。

 言われた先生は「はて」と首を傾(かし)げて思いました。

 どうしてこんな、賜(し)いちゃん(子貢)自身が能く知っていることを態々(わざわざ)質問するのだろう。ははーん。さては、私が輒に加勢する気があるかどうかを探りにきたのだな。良いでしょう、正直に答えてあげましょう。

 そしてこのように答えられました。

 伯夷叔斉は、古(いにしえ)の賢人ですね。

 子貢は重ねて質問しました。

 彼等は自分から裕福幸せを放棄して無意味に意地を張って餓死して了いました。とても苦しかったのではないかと思うのですが、後悔はしてないのでしょうか。

 先生は言われました。

 彼等は「仁」、人間の最も正しい在り方を求めてそれを手に入れたのです。乃ち、正しい生き方を正しく理解して、自分の生命(いのち)を懸けての実践を遣り抜いたのです。一番望む生き方を全(まっと)うできたのに、何を悔いることがありましょうか。

 先生から予想通りの答えを得て納得した子貢は、退室すると、冉有に言いました。

 先生には衛の君を助ける心算(つもり)はないよ。

 その後(のち)、先生も子貢達も心配していましたが、矢張り子路は蒯聵に殺されてしまいました。子路も、自分の職分を全うした立派な最期でした。

 

☆ 補足の独言

 この章を読んでの一番の感想は、子貢はもっと賢いだろう、という思いです。

 実際にこのような会話が行われたとしたら、冉有の心配に対して子貢が、先生の考えはこうだからこうですよ、と答えて終わっているのではないでしょうか。

 「冉有が言いました。夫子(せんせい)は衛(ゑい)の君(きみ)を為(たす)けるかなあ。子貢が言いました。衛の君と蒯聵(かいかい)は、どちらも礼を失すること甚(はなは)だしいから、決して衛の君を助けることはしないでしょう。唯、子路のことを大変心配されているでしょうが、私情で以て道を外れた者に味方する、等ということは先生は決して為(な)さらないでしょう。冉有が言いました。そうだね。」お終い、となってしまって、全然面白くないものになりそうです。そこで、子貢の程度をもう少し落として、譬えの駆け引きで推理する子貢の賢さ、という形で、面白い推理小説に仕立て上げた、という推理は成り立たないでしょうかね。